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【2006年7月21日】

「ハウルの動く城」は本当にハッピー・エンドか?(再掲)(レビュー)

※完全ネタバレ


今週の金曜日、ハウルの動く城が地上波で初めて放送されます(多分)。

ということで、昔書いたハウルの動く城レビューを再掲しておきます。

金曜ロードショーと併せて読んでいただけると幸いです。


−−−


「ハウルの動く城」といえば、1986年に英国で刊行された児童文学「魔法使いハウルと火の悪魔」を原作に、宮崎駿が独自の感性を存分に発揮してアニメ化したジブリ作品です。

今回は、このアニメをレビューすることにしましょう。


物語の根本は割と単純で、魔女の呪いにより90歳の老婆にされてしまった主人公ソフィーと、ヘタレながらも強大な魔力を持ったイケメン魔法使いハウルの恋愛がベースになっています。

聞くだけでワクワクするような設定ですね。

もちろん、それだけではなく、ハウルの弟子であり大きなお姉さんの視線を釘付けにした少年マルクルや、ハウルと契約したために城から動けなくなった火の悪魔カルシファーなどが物語に色を添えています。


さて……ここで物語をご紹介するまでもなく、皆さんの多くはすでにこの映画をご覧になっていることでしょう。

ですので、まずはラストシーンに感じた僕の疑問から入ることにします。


紆余曲折を経て……。

ソフィーは若い姿に戻り、ハウルは心を取り戻しました。

そのおかげで、火の悪魔カルシファーは晴れて自由の身になり、一旦は飛び立ちますが、今度は自分の意思でソフィーたちのもとに帰ってきました。

マルクルは最後まで明るく可愛い少年でしたし、複雑な呪いをかけられていたカカシのカブは、ソフィーのキスによって呪いが解け、実は隣国の王子だったことが判明します。

ハウルの城こそ崩れてしまったものの、仲間たちはみんな元気!

輝かしい明日を象徴するかのように、ラストシーンの空は綺麗に晴れ渡っています。

そんな主要キャラたちの様子を水晶玉で見ていた、マダム・サリマン(ハウルの師匠で、この映画のボス的存在)は、ニッコリと笑ってこう言いました。


「ハッピー・エンドってわけね」



……。

…………。



果たして、本当にそうか?


もう一度、胸に手を当ててよく考えてみてください。

確かに、みんな幸せになったように思えます。

でも、一人だけ幸せになれなかった人がいます。


そう……荒地の魔女です。


何となくラストシーンの爽やかさに誤魔化されていますが、先ほどの場面に、荒地の魔女を加えてもう一度見てみると……。


若い姿に戻ったソフィー。

心を取り戻したハウル。

解放されたカルシファー。

人間に戻ることができたカブ。

魔力を奪われ、最後まで若い姿に戻ることができず、おまけに介護を受けることになってしまった荒地の魔女。



……いかがでしょう。最後の最後で、一気に暗い話になってしまいました。


だいたい、荒地の魔女は設定からして悲惨です。

 

荒地の魔女

ハウルをつけ狙う魔女。
かつてキングズベリーの王室つき魔法使いだったが、50年前に王宮を追われ、荒地に身を潜めている。

――公式サイトのキャラクター紹介より引用


この紹介によると、荒地の魔女はもともとキングズベリーの王室つき魔法使いだったそうです。

王室つき魔法使いといえば、詳細は知りませんが、けっこう地位としては高い方なのではないでしょうか。

少なくとも、やたら偉そうなマダム・サリマンと同じような立場であったことは間違いないでしょう。

そこまでの権力を手に入れながら、50年前に王宮を追われ、それ以来、荒地に身を潜めながら王宮に戻るチャンスをずっと待っていたのです。

考えてみれば、物凄い執念です。ソフィーが呪われていた期間がどれぐらいだったのかはわかりませんが、せいぜい1ヶ月といったところでしょう。

こっちは50年ですよ。

ケタが違います。年季の入り方が違います。

そんな荒地の魔女にとって、王宮から呼ばれるということは、いわば悲願。

物語中盤で王宮から招集がかかったとき、荒地の魔女がどれほど嬉しかったか、想像に難くないでしょう。

ところがですよ。

「やっと、サリマンも私を認めたのね」と、ウキウキしながら王宮に向かってみれば、入り口で魔法を消され、そのせいで汗だくになって長い階段を上ることになり、挙句の果てにはサリマンに頼られるどころか、罠に引っかかって魔力を全て奪われるという始末です。

ちょっと前までは、馬車からはみ出んばかりのデカ顔を揺らして、「オホホ……」とか笑っていた荒地の魔女が、悲願を達成したと思った瞬間、一転して瀕死の老婆に。



Before




After



こんな不幸が他にありますか?

まったく……90歳の老婆になったぐらいでガタガタ言わないで欲しい。なんだかんだでソフィーは、たまに若い姿に戻ったりもしていたじゃないですか。最後には18歳に戻った上にイケメンと結ばれたじゃないですか。

いいですか、荒地の魔女はこれから先の人生、リアルに90歳ですよ。しかもどう考えても結婚相手なんていないですよ。

これから先……どうしたらいいんですか! 責任取ってよね!


……とまあ、荒地の魔女に代わって叫んでみましたが、よくよく考えてみると、荒地の魔女の本名って何なんでしょう?

少なくとも映画の中では一度も呼ばれていません。

50年前に追放されているので、ソフィーやハウルが知らないのは無理もないかもしれませんが、昔からの知り合いであるはずのサリマンまで、彼女を「荒地の魔女」って呼んでますからね。

公式サイトの登場人物紹介を見ると、犬とかカカシでさえ名前があるのに、荒地の魔女だけあだ名しか与えられていません。

……これって、イジメじゃないんでしょうか。

呼んであげて! 誰か、彼女の名を呼んであげて!


そんなわけで、締めの「ハッピー・エンドってわけね」という言葉がいかに薄っぺらいものだったかを検証してきました。


皆さんも、この映画をご覧になるときには、ぜひ荒地の魔女の失われた50年に思いを馳せてみてください。

それが、彼女への最大の供養になることでしょう(死んでないけど)。



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画像の出典:「ハウルの動く城」(c)宮崎駿/スタジオジブリ




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