【2018年12月31日】
日本一寒い町・陸別の「しばれフェスティバル」で人間耐寒テストに参加した【裏話】
年をとるにつれて、「挑戦する」ということが少なくなる。
学生の頃は受験、部活の大会、習い事の発表会みたいな感じで定期的に「挑戦」ポイントがあったが、就職して仕事にも慣れてくると、次第にそういう「挑戦」とは無縁になってしまうものだ。
そして挑戦しなくなると、時間の流れが速く感じてしまう。
年の瀬になると決まって「一年なんてあっという間だね〜」なんてセリフを耳にするようになるが、それは年をとったからというよりも、挑戦しないがゆえに濃密な時間を過ごせていないからなのではないだろうか。もちろん平穏な日常も良いものだが、年に1回や2回は挑戦した方が人生が充実するのではないかと思うのだ。
……ところで、挑戦するからにはしっかり準備すべきである。目標が困難であればあるほど、しっかりと調査し、十分すぎる準備を整えて挑むべきだ。
そんなことはわかっていた。
わかっていたはずなのだが……。
2018年、2月。
日本でもっとも寒い町として知られる北海道・陸別町で氷の宿に一泊するという仕事をすることになった。
氷の宿で一晩耐えられるか!? マイナス30℃の町、陸別町の「人間耐寒テスト」に参加してみた
詳しい内容はこちらの記事を読んでいただきたいのだが、簡単に説明すると、陸別町では寒さを売りにした「しばれフェスティバル」というお祭りが開催されており、その中で
「人間耐寒テスト」なるイベントが行われているのである。字面からしてヤバイ雰囲気が漂っているが、まさに読んで字のごとし。過去に最低気温が
マイナス40℃を記録したこともあるという極寒の地、氷のかまくらの中で一晩を過ごすという、すさまじい試練である。
僕のミッションは、その人間耐寒テストに参加し、無事生き残って記事としてレポートすること。
誤解のないように書いておくと、別に強制されたわけではなく、企画会議でイベントのことを知り、自ら「行く」と言ってしまったのだ。……ただし、そのときはそれがどういうことなのか、深く考えていなかったのだが。
おそらく編集部も、僕があまりにも自信たっぷりに「人間耐寒テスト、やります」と言い放ったため、
「こいつ、もしやアウトドアの達人?」と思ったのではないだろうか。
残念ながら、僕は
キャンプすら人生で2回しか経験のない非アウトドア野郎である。
ともあれ、あまりにも僕が自信満々に引き受けたため、「準備はお任せします!」と編集部から絶大な信頼が寄せられ、装備などは僕が自分で調達することとなった。
しかし、余裕ぶっこいていた僕は出発2週間前になるまでまったく何の準備もしなかった。極寒の北海道で一晩過ごすというとんでもない「挑戦」を目の前にしながら緊張感ゼロのままだったのだ。
そして1月も半ばを迎えた頃。編集部からのメールでイベントのことを思い出した僕は、手持ちの服でもっとも暖かいダウンジャケットを引っ張り出し、それを着て人間耐寒テストに挑戦することをTwitterでつぶやいた。
すると、多方面から意見が寄せられた。それらの意見を要約すると、だいたい次のようなものだった。
「その装備だと死にます」
……ここへきてようやく事の重大さに気づいた僕は慌ててTwitterでアドバイスを求め、教えてもらった装備を買うために都内のアウトドアショップを駆けずり回り……愕然とした。
耐寒にもっとも重要なアウターがどこにも売っていないのだ。
遅すぎたのである。時期は2月。各アウトドアブランドはもっと前から新作をリリースしており、そしておそらくそれほど数もつくっていないのだろう。必要な人たちはとっくに購入してしまっていたのである。
「やってしまった……!」
完全になめていた。服くらいいつでも買えるだろうと思っていたが、甘かった。
行く先々のショップで「マイナス40℃に耐えられる装備をください」というと、「えっ……?」という顔をされ、申し訳なさそうに謝られた。
謝らないといけないのはむしろ準備を怠ったこっちの方である。
そんなこんなで
「そこそこ暖かいアウターを2枚重ねるしかないのでは」というところまで追い詰められたが、最後の最後でたどり着いた「Foxfire」というブランドで運良く最強の防寒着であるオーロラジャケットをゲットすることができた。その名の通り、オーロラ観測のためにつくられたというアウターである。
これで無事、すべての装備がそろった!
……白状すると、実はこの時点ではまだ「とはいえここまで整えなくても普通の冬服で案外いけるのでは?」くらいに思っていたのだが、実際に陸別の夜を体験して、
その甘い思いは粉々に打ち砕かれることになる。そのあたりはぜひ
記事を読んでほしい。
さて、ギリギリのところで何とか装備を整え、いよいよ北海道へと旅立った。
ここからは、今後
しばれフェスティバルに参加するかもしれない皆さんのために、記事には書かなかった裏話なども交えてレポートしていこう。
着陸後、結月ゆかりを激推ししている女満別空港からバスで北見市へ向かう。
カーリングの町として有名な北見で一泊し、明日の本番に備えるのだ。
陸別町ほどではないのかもしれないが、北見も一面雪に覆われておりかなりの寒さである。
あまりにも寒いので、ちょっと歩いては商業ビルに逃げ込み暖を取るという方法でしのぐ。
せっかくなので昼間のうちに北海道グルメでも堪能するかと思い、はま寿司へ。
全国チェーンの回転寿司を北海道グルメと呼んでいいかはさておき、異様に広い店内に少ないスタッフ、
すっかりはま寿司に馴染んでいる案内係のペッパーなど、ちょっとした近未来っぽい雰囲気の回転寿司を味わうことができた。
寒いながらに昼間は何とか耐えることができ、これなら人間耐寒テストもいけるのでは? と自信を深めたのだが、念のため夜の寒さも体感してみることに。
が、ホテルの外に出た瞬間、
「あ、無理だ」と悟った。
フル装備でなかったこともあるが、ちょっとでも隙間があると冷気が流れ込み、身体の熱を一瞬で奪っていく。
寒いを通り越して「なんかやばい」と神経が警告を発し始めるレベルである。
結局、5分ともたずにホテルに逃げ帰ったのだが、本番の人間耐寒テストはこれ以上の環境で一晩過ごさなければならない。
今からこんなんで大丈夫なのだろうか……不安がよぎる。
翌日、しばれフェスティバル本番。記事には書かなかったのだけど、お祭りは17時頃からだったのでわりと自由時間があった。
なので陸別町へ移動した後は、地元の人におすすめされた「りくべつ鉄道」の特別運行電車の試乗を体験。これは別に仕事ではなく、本当にただ観光で乗ってみただけだ。
電車に乗り込むのはバスの発着場でもある道の駅オーロラタウン。しばれフェスティバルに参加する場合は、ここが拠点となるので覚えておいてほしい。
よく見ると休憩所には
「登山かな?」と思うほどガチな装備の人たちが何人かいる。間違いなく僕と同じ目的でしばれフェスティバルに参加する人たちだろう。夜が明ければ
「戦友(とも)」として強い絆で結ばれるのだろうか……。
電車に乗るといっても乗車時間は15分程度で、ぐるっと一周してまた道の駅に戻ってくる。
この時点でもまだ時間があったため、次におすすめされた「銀河の森天文台」へバスで向かうことにした。
銀河の森天文台は日本最大級の大型望遠鏡が設置されている。陸別町は極寒ゆえに空気が澄んでいるのか星がよく見えるということで、「星空にやさしい街10選」にも選ばれているのだ。
正直、天文台の存在はこの日初めて知ったのだけど、ここは星好き、宇宙好きなら訪問必須の施設。日程によってはカナダのイエローナイフの様子を生中継しており、運が良ければオーロラを見ることもできる。
また、大型望遠鏡が起動する様子はめちゃくちゃかっこいい。
ロボットアニメ系のギミックが大好きな人ならぜひリアルで見てほしい。
そんな感じで過ごしていると夕方になり、いよいよしばれフェスティバルが始まった。
しばれフェスティバル、そして人間耐寒テストの詳しいレポートは
Yorimichi AIRDOの記事でご覧いただくとして、今回は人間耐寒テストに挑む方のために、さらに細かい裏話を記しておこうと思う。
まず、オーロラジャケットを始めとする装備の数々だが、結論からいうと
決してオーバースペックではなかった。
何しろオーロラジャケットを着ていても、
時間と共に冷えがじわじわと身体を侵蝕してくるのだ。
人間耐寒テストスタートから数時間は「命の火」と呼ばれる巨大な焚き火があるので、それにあたっていればしのげるのだが、
ちょっとでも離れるともう寒い。
また、本当にきついのは就寝中。バルーンマンションは風を防ぐことができるものの、
マジですべて氷でできているので寒い。
つまり、何をどうやっても寒さからは逃れられないのだ。
ちなみにこんなふうに入り口を削ってバルーンマンションに入りやすくしているチームもいた。……入りやすいのはいいけれど、これだと
風が防げないと思うのだが、どうやってしのいだのだろう……。
運営側で準備してくれるのは段ボールだけ(これは別に嫌がらせではなく装備も含めて挑戦するイベントなので当然なのだ)で、
5万円もする耐寒用寝袋を持ってしてもなお、夜中には寒くて何度も目が覚めた。寝袋に加えて耐寒シートは必須といっていい。
なお、夜中には念のためスタッフが1時間おきくらいに見回ってくれていたらしい。……“念のため”っていうのはつまり、
そういうことですよねたぶん。
なお、手袋は本格的な耐寒仕様のものと薄手の一般的な手袋の2種類持っていくことをおすすめする。
というのも、僕は耐寒仕様の手袋だけを持っていったのだが、ごつすぎてうまく指が動かせず、何か細かい作業をするときは結局外すはめになってしまったのだ。
たしかに極寒ではあるが、手袋が薄いからといっていきなり手がやられたりはしないので、用途に応じて使い分けられるように2種類あると便利である。
毎回なのかはわからないが、僕が参加したときは夜中に地元のラーメン屋さんからのラーメンの差し入れがあった。
冗談抜きで人生最高のラーメンだった。最高の調味料は空腹だと思っていたが、
“冷えた身体を温める”はさらにその上をいく調味料かもしれない(寒すぎてすぐに食べてしまったため写真は撮れていない)。
そして本当の試練は就寝時である。
寒さはもちろんだが、それ以上にきついのは
“寂しい”ということである。冗談のように聞こえるかもしれないが本当だ。
今回、僕は一人で参加したのだが、正直寒さ以上に孤独がきつかった。だんだんやることもなくなってくるし、時間も長く感じてしまう。この日は陸別にしては暖かい日(!)だったらしく、それもあって何とか乗り切れたのだけど、もう10℃気温が下がっていたら果たして一人で耐えられたかどうか自信がない。
“共有できる仲間がいる”というのは、試練を乗り越えるために重要な要素なのだと改めて痛感した。なので皆さんも
人間耐寒テストには友だちなど複数人で参加することをおすすめします。
何とか眠りについて朝がくれば人間耐寒テストは終了なのだけど、最後まで気は抜けない。
雪の状況によっては
バルーンマンションの入り口がふさがっている可能性があるのだ。
僕のときも夜中に雪が降り積もったらしく、
目が覚めたら入り口が消えていて焦った。
そういうこともあるということを覚えておいてほしい。
ちなみに目が覚めたら飲もうと思ってアクエリアスを買っておいたのだけど、
朝起きてみるとバッキバキに凍っていた。
人間耐寒テストが終了したら認定証をもらってバスで別の場所へ移動。朝ごはんとお風呂がプレゼントされる。
バスには何回かに分けて乗り込むので、片付けをしながら順番を待つのだけど、この片付けが
予想以上に手こずるので注意だ。
何しろ極寒の夜を耐えしのいで迎えた朝である。いくら皆でラジオ体操をして身体をほぐすとはいえ、
冷え切った肉体はそう簡単にフルパワーで動けない。
別の場所に置いておいたトランクまで荷物を運んで荷造りして……とやっているとあっという間にバスの時間になってしまう。
ぶっちゃけ、
人間耐寒テスト本番よりもこの片付けのときの方が焦ったといっても過言ではない。
参加される場合は翌朝の片付けのシミュレーションをしておいた方がよい。
朝ごはんは地元の公民館のような建物でいただく。お風呂はおそらく地元の銭湯が厚意で貸し出してくれているものだ。
このへんでやっと「生きててよかった」「やったったぞー!」という実感がわいてくる。
ただし、当たり前だが、ご飯とお風呂が終わると
再び道の駅まで戻らないといけない。
帰りもバスに乗ればいいのだが、バス停までは微妙に距離があったりして、結局
雪の中をトランクを引いて歩くことになる。
人間耐寒テストが終わっても、陸別の厳しい寒さが終わったわけではないので、多少は雪の中を歩く余力を残しておいた方がよい。
……以上が人間耐寒テスト、そして陸別の旅のすべてである。
「極寒の地で寝る」という体験をしにいったはずだったが、振り返ってみれば予定になかった様々なイベントが発生した旅だった。
間違いなく2018年でもっとも印象に残った仕事であり「挑戦」だったと思う。
北海道は夏に避暑で向かう人が多いのだろうけど、冬を楽しむのも悪くない。皆さんもぜひしばれフェスティバル、そして人間耐寒テストにチャレンジしてみてはいかがだろうか。平穏な日常では味わえない“リアルな生の実感”が得られること請け合いである。
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